Q.
毎年2月になると「北方領土の日」(2月7日)と「竹島の日」(2月22日)のことが報道され、日本の領土問題について考えさせられるのですが、ロシアと韓国に占拠されているこれらの領土が返還されることはないのでしょうか。また、どのようにすれば奪われた領土を取り戻すことができますか。
A.
まず、北方領土と竹島について、これらの島が不法に占拠されるようになった経緯を記しておきます。
北方領土(歯舞群島[はぼまいぐんとう]・色丹島[しこたんとう]・国後島[くなしりとう]・択捉島[えとろふとう])は、1945年8月28日から9月5日にかけて当時のソ連軍により占拠され、それ以降、ロシアによる不法占拠が続いています。
竹島は1952年1月、李承晩(りしょうばん・イスンマン)大統領が「海洋主権宣言」、いわゆる「李承晩ライン」を国際法に反して一方的に設定し、その後、韓国により不法占拠されています。
それでは、不法占拠され、他国によりほぼ実効支配されているこれらの領土を取り戻すことはできるのでしょうか。結論的に言えば、相当に困難なことであると思います。北方領土についてはすでに80年、竹島もおよそ70年にわたって、ロシアと韓国により不法占拠されたままになっています。また、北方領土と言われる四島にはロシア住民が居住しており、これらの地域はロシア住民にとっては単なる移住地ではなく、自分たちの故郷となっています。
国際法上何ら根拠のない不法占拠であっても、これらの島々が歴史的にも、国際法的にも、日本固有の領土であったとしても、現実問題としては返還される可能性は極めて低いと言わざるを得ないのです。たとえ、不法であり、理不尽であったとしても、他国に占拠された領土を取り戻すことは容易ではないからです。このような現実を踏まえた上で、私たち日本人が歴史の教訓として肝に銘じておかなければならないことがあります。
それは、不法占拠されたわが国固有の領土を私たち日本人がないがしろにしてきたということです。つまり、領土問題の根底には日本国政府ならびに日本国民の怠慢があり、不作為があったということです。そして、この厳粛な事実をまず認めることです。少し厳しい言い方をすれば、領土問題とは身から出た錆(さび)でもあり、「権利の上に眠るものは保護に値せず」という法格言により時効となってしまうような深刻な事態であるということです。
では、不法占拠された領土は永遠に返還されないのでしょうか。ここで歴史の教訓として「三国干渉」についてお話ししておきたいと思います。日清戦争に勝利した日本は清国との間に「下関条約」を締結し、遼東半島の割譲(かつじょう)を認められます。これは条約により定められたことであり、国際的には明らかに合法的な割譲なのですが、東アジアを植民地化しようとしていたロシアは、ドイツとフランスと通じて遼東半島の返還を要求してきました。これが「三国干渉」と呼ばれているものです。
ところが、当時の日本には三国干渉に対抗するだけの国力がありませんでした。ロシアの軍事的脅威に対して日本は正当な権利を放棄し、屈辱的な要求を受け入れなければならなかったのです。つまり、合法的に獲得した割譲地であっても、強国に干渉されればその地域を手放さざるを得なくなる、これが国際社会の現実であることを見せつけられたのが三国干渉だったのです。
もし、日本が不法占拠された領土を取り戻すことを真に願うのであれば、三国干渉の事例にならって、ロシアと韓国に対して領土返還を要求することも一計なのではないでしょうか。しかし、ここには大前提があります。それは、日本が相手国に対して領土の返還要求を認めさせるほどの国力を充実させているか、ということです。かつてのロシアが日本に割譲地の返還を受け入れさせたような国力を日本が保持することができているかどうかなのです。そのような大前提の上で、同盟国である米国と共に、また、それ以外の国と連携し、現代における「三国干渉」を行うことができれば、戦争によってではなく、平和裡(へいわり)にわが国固有の領土を取り戻すことができるかもしれません。